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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)343号 判決 1999年6月08日

東京都千代田区神田錦町1丁目25番地

原告

日清製粉株式会社

代表者代表取締役

正田修

訴訟代理人弁護士

丹羽一彦

金子浩子

同弁理士

佐藤辰男

訴訟復代理人弁護士

大野聖二

東京都千代田区内神田2丁目2番1号

被告

昭和産業株式会社

代表者代表取締役

金原陸夫

訴訟代理人弁理士

須藤阿佐子

主文

特許庁が平成6年審判第1757号事件について平成9年11月28日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、発明の名称を「即席冷凍うどんの製造法」とし、昭和58年5月17日に出願、平成5年8月13日に設定登録された特許第1779184号の特許発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。

被告は、平成6年1月24日に本件発明に係る特許の無効の審判を請求し、特許庁は、同請求を平成6年審判第1757号事件として審理した上、平成9年11月28日に「特許第1779184号発明の特許を無効とする。」旨の審決をし、その謄本を同年12月8日に原告に送達した。

2  本件発明の特許請求の範囲

タピオカ殿粉を5~30重量%含有する小麦粉を使用して製麺し、そして歩留り270~300%になるように茹上げ処理してα化した後、冷凍することを特徴とする即席冷凍うどんの製造法。

3  審決の理由

別紙審決書の理由の写のとおりである。以下、「月刊麺業界 4月号」(通巻99号、株式会社食品産業新聞社大阪支局昭和58年4月1日発行、審決の甲第6号証)を「引用例1」、特公昭56-9098号公報(審決の甲第1号証)を「引用例2」という。

4  審決の取消事由

審決の理由第1及び第2は認める。同第3のうち、(1)、(2)は認める。同第3の(3)のうち、15頁14行目の「請求人が」から16頁19行目の「解される。」まで、17頁6行目から8行目まで(相違点(イ)の認定)、19頁5行目から11行目の「主張する。」まで(相違点(イ)についての原告の主張)、20頁7行目から14行目まで(相違点(ロ)のごとくした点についての本件明細書の記載)及び21頁17行目から22頁5行目の「主張する。」まで(相違点(ロ)についての原告の主張)は認め、その余は争う。同第4は争う。

審決は、「固めに茹上げ処理」、「即席」の点で一致点の認定を誤り、相違点(イ)、(ロ)の判断を誤り、相違点(イ)、(ロ)に係る構成の組合せによる特有な効果を看過したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(「固めに茹上げ処理」の一致点の認定の誤り)

審決は、本件発明と引用例1記載のものは、「固めに茹上げ処理」の点で一致すると認定した。

引用例1においては、喫食に際して、冷水冷却、加熱調理が必要なものである。そのため、冷凍前にうどんをおいしく食べられる状態に至るまで茹上げ処理すると、解凍後加熱処理するためにうどんがやわらかくなりすぎるおそれがある。そこで、引用例1においては、冷凍前に、うどんを芯の残った固めの状態とするものであり、これが引用例1にいう「固めにゆでるのがポイント」ということの意味である。

しかし、本件発明は、加熱調理等をしないでもおいしく食べられ否状態となるものであり、冷凍する前の段階で、既においしく食べられる状態に至るまで、すなわち、最適な茹上げ歩留りに至るまでうどんを茹上げているものである。このように、本件発明の歩留り270~300%は、タピオカ澱粉を含んでいる冷凍うどんにおける水分勾配の維持及び澱粉の老化防止に関する機能を発揮する最適条件を規定したものであるとともに、タピオカ澱粉を5~30重量%含んだうどんにおいては最適な範囲のものであり、おいしく食べられる状態となる前の芯の残った状態とするものではない。

したがって、本件発明は、「固めに茹上げ処理」をするものではないから、審決の認定は誤りである。

(2)  取消事由2(「即席」の一致点の認定の誤り)

審決は、本件発明と引用例1記載のものには、「即席冷凍うどんの製造法」という点で一致すると認定した。

しかし、即席冷凍うどんとは、解凍しただけでおいしく食べられる状態となるうどんであり、喫食に際して加熱調理が必須の工程とはならないものである。ところが、引用例1記載のうどんは、冷凍する前の段階では、おいしく食べられる状態まで茹上げてはならず、また、加熱解凍、冷水冷却、加熱調理という工程を経て初めて、おいしく食べられる状態となるものである。

したがって、引用例1記載のものは、単なる通常の冷凍うどんであって、「即席」冷凍うどんではないから、審決の認定は誤りである。

(3)  取消事由3(相違点(イ)の判断の誤り)

イ 本件発明における相違点(イ)に係る構成の技術的意義は、冷凍茹うどんの食感における生命線となる水分勾配の維持及び澱粉の老化防止に優れた効果を発揮する点にあるものである。

ところが、引用例2記載の発明は、非油揚即席麺における製造法において澱粉を添加するものである。すなわち、引用例1記載の発明は、麺の製造過程で麺を乾燥させるものであるから、水分勾配の維持とは関係がなく、また、加熱調理により麺を再α化して初めて、喫食可能となるものであるから、澱粉の老化防止とも関係がない。

このように、冷凍うどんにおける水分勾配の維持及び澱粉の老化防止という技術的課題からすれば、引用例2記載の発明は、その解決方法を示すものではなく、意味をなさない。

ロ 審決が認定する周知技術は、単に製麺材料として小麦粉等の穀粉の一部をタピオカ澱粉等の澱粉で置換したものが使用されているというだけのものであり、本件発明の技術的課題の解決には何らの示唆も与えない。

ハ 以上のとおり、引用例2記載の発明及び上記周知技術は、本件発明の技術的課題を解決するのに適したものではないから、これと引用例1記載の発明の組み合わせにより、相違点(イ)に係る構成を想到容易とした審決の判断は誤りである。

(4)  取消事由4(相違点(ロ)の判断の誤り)

イ 本件発明における相違点(ロ)に係る構成は、解凍時又はその後に注入される湯によってうどんが柔らかくなることなどを防ぐものではなく、タピオカ澱粉を5~30%含有する小麦粉を原料として冷凍うどんを製造したとき、最もうどんを美味で食する歩留りを定めたものであり、解凍時湯はうどんに吸収されていない。

ロ しかし、引用例1の「固めにゆでるのがポイント」の意味は、前記(1)で述べたとおり、解凍後加熱処理するためにうどんがやわらかくなりすぎるおそれがあるために記載されたものである。

ハ したがって、本件発明の固めに茹でる意味と引用例1記載の固めに茹でる意味とは、軌を一にするとした審決の認定判断は誤りであり、これを前提とする相違点(ロ)の判断も誤りである。

(5)  取消事由5(相違点(イ)、(ロ)に係る構成の組合せによる特有な効果の看過)

本件発明は、相違点(イ)、(ロ)に係る構成の組合せにより、冷凍うどんにおいて、澱粉無添加のうどんと比較して、水分勾配の維持及び澱粉の老化防止に関して、優れた効果を発揮させることにより、より食感の優れたうどんを提供し、更に、水戻しでも喫食可能にするものである。

このような効果は、引用例1及び審決認定の周知技術には、示唆さえない効果であり、審決は、これを看過した誤りがある。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。同4は争う。

原告の主張は理由がなく、審決中にある誤りもいずれも極めて軽微なものであって、審決の結論自体には影響しない。

2  被告の主張

(1)  取消事由1について

引用例1の「固めにゆでる」とは、例えば、引用例1記載の発明の製麺の場合は、30~40分の範囲の中で比較的短い茹時間、換言すれば、30分程度茹でることを意味しているとみるべきである。

原告が主張する「水分勾配の維持及び澱粉の老化防止に関する機能」は、本件明細書に記載されていない技術用語を用いたものであって、本件明細書から導き出すことはできない。

また、本件発明は、温かくして食べるものについては、冷凍うどんを解凍後、そのまま食することをしないで、具などを入れ、再度湯を注いで食べるのである.一方、引用例1の「加熱調理」とは、「麺を温める程度にし、ゆで過ぎないこと」と説明されているように、本件発明における再度湯を注いで食することと変りがない。熱いつゆをかける工程を「加熱調理」というか「再度湯を注ぐ」というか、単なる表現上の相違である。すなわち、本件発明も引用例1記載のものも、共においしく食べられる状態までうどんを茹上げているものである。

(2)  取消事由2について

前記(1)で述べたとおり、引用例1の「加熱調理」とは、本件発明における再度湯を注いで食することと変りがない。引用例1は、凍結したうどん玉も凍結していないうどん玉と同じように扱うことができることを教示するものである。したがって、本件発明と引用例1記載のものは、「即席」の点で一致する。

(3)  取消事由3について

原告がその主張の根拠とする「冷凍茹うどんの食感における生命線となる水分勾配の維持及び澱粉の老化防止に優れた効果を発揮する点」は、本件明細書に記載されていない技術用語を用いて定義するものであり、根拠がない。

(4)  取消事由4について

請求の原因4の(4)(取消事由4)のイは認める。したがって、「本件発明の固めに茹でる意味と、甲第6号証記載の固めに茹でるの意味とは、軌を一にするものであり、この固めに茹でるに際して、その最適範囲を通常行う実験等を通じて、茹上げ歩留りで示したにすぎないものと認められる。」との審決の認定判断に一部分誤りが含まれることは認める。

しかし、上記誤りは、審決の結論に影響しない軽微な誤りである。

(5)  取消事由5について

原告が主張する「水分勾配の維持及び澱粉の老化防止に関する優れた効果」は、本件明細書に記載されていない効果であるから、原告の主張は根拠がない。

冷凍うどんの冷水による解凍方法は、特開昭57-159461号公報に記載されているように本件発明の出願前に公知の方法であり、もともと本件明細書において異質な効果であると認識していなかったとおり、本件発明の特有の効果ではない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

第2  本件発明の概要

甲第3号証中の訂正明細書によれば、本件明細書に記載された本件発明の概要は、以下のとおりと認められる。

1  本件発明は、即席冷凍うどんの製造法に関し、更に詳しくは、タピオカ殿粉を含有する小麦粉を原料粉として使用する即席冷凍うどんの製造法に関する。従来冷凍麺類の製造法に関しては種々の方法が提案されている。(1頁8行目から11行目まで)

しかしながら、これらの方法は食味・食感の点で種々の問題があるものであった。また、これとは別に、従来麺類の食味向上等を目的として種々の方法が提案されている。これらの方法の1例としては、穀粉中にワキシーコーンスターチを1~20%の量で添加する方法がある。しかしながら、この方法はワキシーコーンスターチの添加によって穀粉中の蛋白含量の低下分を別に外部から補給しないと所期の目的が達成できない欠点があった。(1頁20行目から2頁3行目まで)

2  本件発明者等は、これら従来法の欠点を解決すべく種々研究を重ねた結果、本件発明を完成するに至った。

すなわち、本件発明は、特許請求の範囲記載の構成を採用するものである。(2頁4行目から8行目まで)

3  本件発明の方法について更に詳細に述べると、次のようになる。すなわち、前記のようにタピオカ澱粉を添加した小麦粉を常法に従って製麺し茹上げる。この時の茹上げ歩留りは、通常のうどんの茹上げ歩留りより低めにすることが必要であって、歩留りを270~300%とする。この範囲より歩留りが多いと、後で解凍して食した場合に弾力性に欠け柔らかすぎる状態になり、これより歩留りが少ないと、硬くて芯のある食感になってしまう。(3頁1行目から7行目まで)

4  この即席冷凍うどんを食する場合には、まず解凍のために湯を入れるのであるが、この湯温は90℃以上が最適ではあるが、80℃以上あれば充分である。すなわち、必ずしも従来のように沸騰した熱湯を用いる必要はなく、ポット等に入れた湯で充分である。更に冷やして食べるものについては、必ずしも湯を使う必要はなく、水道水でも可能である。(3頁下から2行目から4頁3行目まで)

本件発明方法は、穀粉中の蛋白質含量を調整する必要がなく、従来の同様の麺類に比べて優れた食味を有し、特に滑らかさ及び粘弾性についても非常に優れた効果を有する。また、本件発明に係る麺類は、従来のように沸騰湯中で解凍する必要がなく、ポット等の湯で充分であり、更に冷やして食する麺の場合は水道水でも解凍でき、かつ、麺線の煮崩れも少ない利点を有する。(4頁16行目から21行目まで)

第3  審決の取消事由について判断する。

1  取消事由4について判断する。

前記第2の3及び4の認定に係る本件明細書の記載(とりわけ、本件発明に係る冷凍うどんを食する場合には、必ずしも湯を使う必要はなく、水道水でも可能である旨の記載)及び弁論の全趣旨(とりわけ、被告が請求の原因4の(4)(取消事由4)のイを認めている事実)によれば、本件発明における相違点(ロ)に係る構成は、解凍時又はその後に注入される湯によってうどんが柔らかくなることなどを防ぐものではなく、タピオカ澱粉入りの冷凍うどんにおける好適歩留りとして、茹上げ歩留りを通常よりも低めの270~300%としたものであることが認められる。

一方、甲第5号証によれば、引用例1の「固めにゆでるのがポイント」との記載は、審決の認定するとおり、解凍時湯に入れ、更に調理時に湯が注入されることから、これらの湯がうどんに吸収されることに留意し、うどんが柔らかくなりすぎるおそれがあるために記載されたものと認められる。

そうすると、本件発明の固めに茹でる意味と、引用例1記載の固めに茹でる意味とは、軌を一にするものではなく、その意味が異なるものであるから、本件発明の相違点(ロ)に係る構成について、引用例1記載の「固めにゆでる」に際して、その最適範囲を通常行う実験等を通じて、茹上げ歩留まりで示したにすぎないものということはできない。

したがって、相違点(ロ)について、これを容易とした審決の判断は誤りといわざるを得ず、この誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

2  以上によれば、審決は、その余について判断するまでもなく、取消しを免れない。

第4  よって、原告の本訴請求は、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日・平成11年5月25日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

理由

第1 本件特許第1779184号

本件特許第1779184号(以下、「本件特許」という。)は、出願日が昭和58年5月17日の特許出願(特願昭58-85072号)(以下、「本件出願」という。)に係り、当該特許出願について昭和63年12月20日に出願公告(特公昭63-66177号)された後、平成5年8月13日に設定登録されたものである。その後、平成7年5月9日に特許法第126条の規定に基づく明細書の訂正をする審判請求(平成7年審判第10190号)がなされ、平成7年11月8日にこれを認める審決(平成7年11月22日確定。)がなされた。そして、本件特許に係る発明(以下、「本件発明」という。)の要旨は、前記訂正された明細書の記載によれば、その特許請求の範囲に記載された以下のとおりと認める。

「タピオカ殿粉を5~30重量%含有する小麦粉を使用して製麺し、そして歩留り270~300%になるように茹上げ処理してα化した後、冷凍することを特徴とする即席冷凍うどんの製造法。」

第2 当事者の主張及び提出した証拠方法

当事者の主張及び提出した証拠方法は以下のとおりである。

1.請求人の主張

請求人は、「第1779184号特許は、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、前記訂正審判における明細書の訂正(以下、「本件訂正」という。)は、下記の甲号各証及び参考資料1、2を提出し、以下の旨の理由により、特許法第126条第1項ただし書若しくは第2項から第4項までの規定に違反してされたものであるので、本件特許は、特許法第123条第1項第8号の規定により無効とすべきであると主張する。(請求人は、平成6年法律第116号をもって改正された以降の特許法に基づき条文適用しているが、本件審判は、平成5年法律第26条をもって改正された特許法が適用されるので、以下、適用条文については、適用する特許法の条文に読み替える。)

(1)本件訂正のうち、特許請求の範囲の訂正に「歩留まり270~300%になるように茹上げ処理して」という事項があるが、訂正前の本件明細書のこれに関する記載をみると、「通常の麺の茹で上げ歩留まりより低めにすることが望ましい」ということで、「うどん等のような太物」の好ましい歩留まりとして「270~300%」が記載されている。そうすると、この数値範囲は「通常の麺の茹で上げ歩留まりより低めにすることが望ましい」という前提があって初めて意味のある数値範囲であり、うどんには太いもの、細い物があるため、うどん全般について規定したものとはならない。したがって、前記のように訂正することは、出願当初の明細書が意図していない発明をも包含していることになる。なお、甲第5、6、7、11号証から、「通常の麺の茹で上げ歩留まりより低めにするが望ましい」ことは当たり前のことであり、またうどんを前記数値範囲の歩留まりで茹で上げることを規定しただけでは、「通常の麺の茹で上げ歩留まりより低めにする」を規定したことにはならないことは明らかである。以上のことから、前記訂正事項は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものでないし、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものでもないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるので、前記訂正は、特許法第123条第1項ただし書き若しくは第2項の規定に違反してされたものである。

(2)本件発明は、甲第4号証によれば、本件出願前の他の特許出願であって本件出願後に出願公開されたものの願書に最初に添付された明細書に記載された発明と同一であり、この発明の発明者者と本件発明の発明者と同一とも、本件出願の時に当該他の特許出願の出願八と同一でもないので、本件発明は、特許法第29条の2第1項の規定によって特許をうけることができなく、本件出願の際独立して特許を受けることができない。したがって、本件訂正は、特許法第126条第3項の規定に違反してされたものである。

(3)本件発明は、甲第1~3号証及び甲第5~11号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができなく、本件出願の際独立して特許を受けることができない。したがって、本件訂正は、特許法第126条第3項の規定に違反してされたものである。

なお、請求人は、本件請求書において、前記訂正前の明細書の記載に基づき、本件特許に係る発明の要旨を認定し、これに対して、前記甲第1~3号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであると主張しているが、前述のように本件特許に係る明細書は、訂正され、しかも、請求人の、その後の弁駁の全趣旨から考えて、請求人の主張する理由は、前記(1)~(3)にあるものと認められる。

2. 請求人が提出した証拠方法

甲第1号証:特公昭56-9098号公報

甲第2号証:特開昭56-78570号公報

甲第3号証:「’83麺業年鑑」全国麺友会共編、(株)麺業新聞社発行、発行日:1982年11月25日

甲第4号証:特開昭59-156260号公報

甲第5号証:「体当たりうどん考」小島高明著、朝日新聞社発行、発行日:1975年10月30日

甲第6号証:「月刊麺業界、4月号」(通巻99号)(株)食品産業新聞社大阪支局発行、発行日:1983年4月1日

甲第7号証:「製麺の基礎-うどん・そば入門-」(株)食品と科学社発行、発行日:昭和46年4月1日

甲第8号証:特開昭57-159461号公報

甲第9号証:特開昭585151号公報

甲第10号証:特開昭58-51859号公報

甲第11号証:「ジャパンフードーサイエンス、第20巻、第4号」(通巻第229号)日本食品出版(株)発行、発行日:1981年4月

参考資料1:平成3年審判第12697号の審決

参考資料2:特公昭62-49018号公報

3. 被請求人の答弁

被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、請求人の前記(1)~(3)の主張に対し、下記の証拠方法を提出し、次の旨答弁している。

(1)請求人の前記(1)の主張に対し、本件訂正は、平成7年審判第10190号において容認されており、このことは、本件訂正が、特許請求の範囲に減縮、誤記の訂正または明りょうでない記載の釈明を目的し、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものない違法な点がないことを物語っており、請求人の主張は間違いである。

(2)請求人の前記(2)の主張に対し、甲第4号証に記載された発明は、「タピオカ澱粉を配合した製麺原料を、真空度約600mmHg以下の減圧環境下で加水混練し、以下常法通り製麺することを特徴をする手延べ風麺類の製造法」を要旨とするもので、冷凍麺にする記載はあるが、本件発明のような茹で上げ条件についての記載はなく、本件発明の方法で得られるうどんとは異なるものと解される。また、甲第6、11号証記載のことから、本件発明における茹で上げ条件は決められるものではない。したがって、本件発明と甲第4号証記載の発明とは、同一でなく、この点の請求人の主張も間違いである。

(3)請求人の前記主張(3)に対し、甲第5~11号証には、請求人の指摘する記載があることは認めるが、これら甲号各証の立証趣旨及び本件特許の無効理由との関係が不明瞭であるとし、被請求人は、これに対する反論を一時保留した。そして、当審の平成9年1月14日付けの審尋書(本件発明は、甲第1、6号証の記載及び周知のことに基づき、当業者が容易に発明をすることができた旨)に対し、本件発明と甲第6号証記載のものと相違点は、「固めにゆでるに際して」の認定を除いて審尋書記載のとおりと認めるが、相違点のタピオカをうどん原料として使用することの容易性の根拠となった甲第1号証記載のものは、非油揚げ即席麺に係り、冷凍麺ではなく、本件発明の滑らかさ等を期待していないので、前記容易性の根拠にはならく、また甲第6号証記載のものと本件発明では、「固めにゆでる」の意味するとことが相違するので、本件発明は、甲第1、6号証の記載及び周知のことから、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4. 被請求人の提出した証拠方法

乙第1号証:田中康裕作成に係る実験報告証明書(歩留まりの相違する場合の官能評価及び物性試験)

乙第2号証:村角 充作成に係る実験証明書(本件発明と従来のうどんの冷凍麺解凍後の歩留まりと官能評価)

第3 当審の判断

1. 請求人の主張する理由(1)について

本件訂正前の明細書には、「この時の茹で上げ歩留まりは通常の麺の茹で上げ歩留まりより低めにすることが望ましい。例えばうどん等太物は260~330%好ましくは270~300%」(本件特許に係る特公昭63-66177号公報第3欄第16~19行)と記載されている。この記載によれば、「うどん」は、太物の例示として記載され、特別の大きさの「うどん」をいうのではなく、通常「うどん」と称されているものを指していることは明らかである。(なお、具体的なその太さは、JISのB9201によれば、切刃参8~16にあることが認められる。)そして、訂正前の明細書の前記記載から、この通常の「うどん」の場合、茹で上げ歩留まりを270~300%とし、通常の茹で上げより歩留まりを低くすることが直接的且つ一義的に導かれるものと認めることができる。そして、このことを根拠として、本件訂正において、「茹上げ処理」を「歩留まり270~300%になるように茹上げ処理」に、「即席冷凍麺」を「即席冷凍うどん」にそれぞれ訂正したものと認められ、これら訂正は、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的としたもので、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものとは認められない。なお、請求人は、「うどん」には、太い、細いがあることを根拠として、前述のように、本件訂正が認められないとしているが、前記説示したように、訂正前の明細書の前記記載における「うどん」は、通常のものであり、またこの「うどん」に対応して歩留まりを270~300%にすることも訂正前の明細書の前記記載から直接的且つ一義的に導かれることから、請求人の前記主張は採用できない。また、請求人の甲第5、6、7、11号証を根拠とする主張等も、採用できないことは、前述の直接的且つ一義的に導かれると説示したことより明らかである。

以上のことから、請求人の主張する理由(1)によって、本件特許を無効とすることはできない。

(2)請求人の主張する理由(2)にっいて

請求人の提出した甲第4号証は、本件特許に係る出願の出願前の出願である特願昭58-32268号の願書に最初に添付した明細書の内容を掲載した公報と認められ、これには、次のことが記載されている。

「1、 タピオカ澱粉を配合した製麺原料粉を、真空度約600mmHg以下の減圧環境下で加水混練し、以下常法通り製麺することを特徴とする、手延べ風麺類の製造法。

2、 前記製麺原料粉中のタピオカ澱粉の配合割合が、略5重量%以上である特許請求の範囲第1項に記載の手延べ風麺類の製造法。」(特許請求の範囲)

「この配合割合の上限は、めんの種類により異なり一律に規定できないが、略30重量%が目安・・・・」(第2頁右上欄第18~20行)

「この生麺を・・・・ゆでればゆで麺、・・・・ゆで麺を冷凍すれば冷凍麺となる如く、本発明は広範囲の麺類に適応できる。」(第3頁右上欄第12~15行)

「冷凍麺や乾麺は、本発明の効果を長時間安定保持できるので、本発明に最も適合する。」(第3頁左下欄第4、5行)

そして、これら記載及び甲第4号証の他のこれら記載に関連する記載をみると、甲第4号証には、下記のことが記載されていると認められる。

「タピオカ澱粉を5~30重量%含有する小麦粉を使用して製麺し、これを茹上げ処理してα化した後、冷凍する冷凍うどんの製造法。」

そこで、本件発明と前記甲第4号証に記載されたものと比較すると、本件発明は、前記甲第4号証に記載のものにない、冷凍前のうどんの茹上げ処理において「歩留まり270~300%になるようにした」ものであり、これにより、本発明は前記訂正明細書記載の、甲第4号証記載のものに記載されていない効果を奏するものである。

なお、請求人は、甲第4号証記載のものにおける「茹上げ処理」は、甲第3、5、6、7、11号証に記載されていることから、解凍してうどんを食する際に、おいしく食することができるように茹で上げることであり、本件発明における「歩留まり270~300%になるようにした」ことと実質的に同じことであると主張する。しかしながら、甲第4号証には、前記歩留まりについての記載はなく、たとえ前記甲号各証から甲第4号証記載のものにおける「茹上げ処理」が、前記のようにおいしく食することができる茹で上げであったとしても、このことをもって、直ちに、その歩留まりが270~300%であるとは言えない。

してみれば、本発明は、甲第1号証に記載された発明と認めることはできなく、特許法第29条の2第1項の規定によって特許を受けることができないとすることはできないので、請求人の主張する前記理由(2)は、採用できない。

(3)請求人の主張する理由(3)について

請求人が提出したこの出願前国内において頒布された刊行物である甲第6号証には、つぎの事項が記載されていると認められる。

(a)ゆで麺を急速冷凍庫で凍結させた後、保管庫で保管すると、かなりの日数保管しても、うどんの腰や味に変化が起こらない。この冷凍麺は、熱湯で1~2分で解凍でき加熱調理時間を含めても4~5分で食べることができる。(第16頁第3段第10~28行)

(b)「<2>ゆで麺の急速凍結システム例」として、「手打ち」・「機械製麺」、「ゆであげ」、「冷水冷却」、「パック作業」、「急速冷凍」、「保管」、「加熱解凍」・「冷水冷却」及び「加熱調理」の順に行う。そして、前記「ゆであげ」においては、固めにゆでるのがポイントである。

ところで、本件発明の要旨は、前記第1に記載したとおりであり、そして、本件訂正された明細書に記載されたその実施例をみると、本件発明においても、前記茹上げした後に水洗いしながら冷却し、凍結させる場合には、容器に入れるものであり、さらには、解凍しうどんを食する場合には、冷凍麺に湯を注いで解凍した後、この湯を捨て、具などを入れ再度湯を注いで食するものと認められる。また、本件発明でいうところの「即席」とは、再度うどんを茹でることなく、湯を注ぐ等して食に供するものとなるという意味と解される。

そこで、本件発明と前記甲第6号証に記載されたものと比較すると、両者は、原料として小麦粉を使用して製麺し、そして固めに茹で上げ処理してα化した後、冷凍する即席冷凍うどんの製造法という点で一致し、本件発明は、前記甲第6号証記載のものと下記の点で相違するのみである。

(イ)本件発明は、うどん原料として小麦粉に「タピオカ殿粉を5~30重量%含有」させている点。

(ロ)本件発明は、固めに茹上げるに際し、歩留り270~300%になるようにしている点。

次に、前記相違点(イ)(ロ)について検討する。

[相違点(イ)について]

本件訂正後の明細書の記載によれば、本件発明の前記相違点(イ)のごとくしたことによる効果は、従来のものと比べ、滑らかさおよび粘弾性等の点において優れたものとなることと認められる。

ところで、請求人の提出したこの出願前国内において頒布された刊行物である甲第1号証をみると、うどん等の麺原料として15~50重量%のデン粉を含む小麦粉を使用すると、麺の復元性を良好ならしめ、弾力のあるなめらかな麺が得られる旨及びそのデン粉としてタピオカが例示している記載が認められる(第4欄第43行~第5欄第22行参照)。

また、製麺において、その原料の小麦粉一部をタピオカ澱粉に置き換えることは、この出願前当業者において周知である。(要すれば、東京高等裁判所、平成5年(行ケ)第84号審決取消請求事件(平成7年6月22日言渡)判決の理由の項の3取消事由の検討における「(3)取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について」の項参照)

そうすると、甲第1号証の前記記載事項及び前記周知のことから、前記甲第6号証記載の冷凍麺の製造法において、甲第6号証の前記(a)に記載されているうどんの腰や味が変化しないことを踏まえ、本件発明のタピオカ澱粉を加えることの主たる効果である滑らかさおよび粘弾性のあるうどんとするために、その原料として15~30重量%のタピオカ澱粉を含む小麦粉を使用すること、即ちこの出願の発明の前記相違点(イ)のごとくすることは、当業者において容易に想到できたことと認められる。

なお、被請求人は、甲第1号証記載のものは、非油揚の乾燥麺であり、本件発明のような冷凍麺とは相違するもので、麺に湯が大量に吸収されて「復元」するものであり、他方、本件発明の冷凍麺は、このような「復元」を起こさないものであるので、この相違点(イ)は、甲第1号証記載のものから、容易に想到できないと主張する。しかしながら、甲第1号証記載のもののタピオカ澱粉を加える目的は、「復元」性を良好にすることもあるが、これに加え滑らかさ及び粘弾性の優れた麺を得ることでもあり、この滑らかさ及び粘弾性の優れた麺を得ることにおいて、本件発明においてタピオカ澱粉を加えることの目的と共通している。そうすると、甲第1号証記載のものから前記冷凍うどんは茹で揚げ時の腰や味が変化しないことを踏まえ、この滑らかさ及び粘弾性の優れた麺を得ることを期待し、冷凍うどんの製造法において甲第1号証記載の量のタピオカ澱粉を原料である小麦粉に添加することは、当業者であれば、容易に想到し得たことであるので、前記被請求人の主張は採用できない。

[相違点(ロ)について]

本件発明の前記相違点(ロ)のごとくした点について、本件訂正後の明細書に「この範囲より歩留りが多いと後で解凍して食した場合に弾力性に欠けやわらかすぎる状態になり、これより歩留りが少ないと硬くて芯のある食感になってしまう」と記載されている(本件訂正前の明細書を掲載した特公昭63-66177号公報第3欄第21~24行、なお、この記載事項は訂正されていない)。

そこで、解凍時、またはその後の調理において湯が注入されることを考慮して、この記載を考えると、この記載の意味するところは、解凍時の湯、または、解凍後再度注入する湯がうどんに吸収され、うどんがやわらかくなりすぎる恐れがあるので、固めに茹で、あまり固めに茹でると前記の湯がうどんに吸収されても芯が残るので、このようなことが起こらないうどんの茹で具合の範囲を歩留りで決めたものと解される。

また、前記甲第6号証のものにおける「固めにゆでるのがポイント」とあるのは、解凍時湯に入れ、さらに調理時に湯が注入されることから、これらの湯がうどんに吸収されることに留意し、うどんがやわらかくなりすぎる恐れがあるために記載されたものであることは、当業者において自明のことである。

そうすると、本件発明の固めに茹でる意味と、甲第6号証記載の固めに茹でる意味とは、軌を一にするものであり、本件発明の前記相違点(ロ)のようにしたことは、この固めに茹でるに際して、その最適範囲を通常行う実験等を通じて、茹上げ歩留りで示したにすぎないものと認められる。

なお、被請求人は、乙第2号証を提出し、本件発明において、歩留まりを270~300%としたのは、解凍時又はその後に注入される湯によって、うどんが柔らかくなることなどを防ぐものではなく、タピオカ澱粉を前記の量含有する小麦粉を原料として、冷凍うどんを製造したとき、最もうどんを美味で食する歩留まりを定めたものあり、前記乙号証に示されるように解凍時湯はうどんに吸収されていない旨主張する。しかしながら、乙第2号証の官能評価に記載されたことは、本件発明において、タピオカ澱粉を含有させることによる効果である滑らかさと粘弾性であり、これを含有しないうどんとの比較において、歩留まりとは関係なくタピオカ澱粉含有のうどんに当然期待される評価である。また、本件訂正明細書に解凍時間は1分30秒から2分とあることから、乙第2号証に示された解凍2分後の歩留まりをみると、タピオカ澱粉含有しないうどんの100℃で解凍する以外は全て増加している。これらのことを考えると、被請求人が、乙第2号証に基づき、前記のように主張する理由では、前記湯によって柔らかくなる等を防ぐものと判断したことを覆すことはできない。

さらに、本件発明において、前記相違点(イ)、(ロ)ごとくしたこと及び冷凍にしたことを組み合わせたことによる効果を考えても、前記甲第1、6号証記載のもの及び前記周知のことを合わせ考えた効果と比べ、格別のものは認められない。

以上のことから、訂正審判によって訂正された本件発明は、前記甲第1、6号証記載のものおよび前記周知のことから、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、本件出願の際独立して特許を受けることができない。

第4 結び

してみれば、本件訂正は、特許法第126条第3項の規定に違反してされたものであるので、本件特許は、特許法第123条第1項第7号に該当し、無効とすべきものである。

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